本屋でなんとなく手に取った、川上未映子さんの『黄色い家』。
上下巻で、決して軽いボリュームじゃないのに、気づけば一気に読み進めていました。
読み終えたあと、正直すぐに感想を書ける本ではなかった。
強く心に残ったことは確かで、
気づけばずっと、登場人物たちのことを考えていた。
映画『パラサイト』を観たあとに似た、
社会の奥のほうを直視してしまったような、
あの何とも言えない気分の悪さが残る。
この物語で一番しんどかったのは「大人」だった
ハナの「出発点」にある、どうしようもない環境
主人公ハナは、
子どもとして安心できる場所を、最初から十分に与えられてはいなかった。
暴力があるわけでも、露骨に見捨てられているわけでもない。
けれど、大人の事情が優先され、子どもが後回しにされる環境。
その中でハナは、
「自分がなんとかしなきゃいけない」という感覚を、
とても早い段階で身につけてしまう。
それが、後の選択や人間関係に、
大きく影響していくことになる。
置かれた場所が、人を静かに変えていく
この本を読んでいて、
一番強く感じたのは「人は意思より先に、環境に影響される」ということだった。
最初から強い言葉を使っていたわけでもない。
最初から危うい考え方をしていたわけでもない。
ただ、
その場所に身を置き、
その空気の中で過ごし、
その世界で生きるしかなくなった。
気づいたら、
使う言葉が変わっていた。
物の見方が変わっていた。
言葉が先だったのか、
環境が先だったのか。
たぶんその答えは、
どちらか一方じゃない。
お金との距離が、少しずつズレていく怖さ
お金の稼ぎ方が変わるたびに、心がすり減っていく感じ
この物語を読んでいて、
何度も胸がざわっとしたのが「お金」の描かれ方だった。
最初は、時間を切り売りして、
体を動かして、我慢して、
少しずつ積み上げていくお金。
それが、環境が変わるにつれて、
入ってくるスピードも、重さも、意味も変わっていく。
楽になったはずなのに、
なぜか気持ちはどんどん苦しくなっていく。
汗をかいていない。
考える余地もない。
でも、まとまったお金だけは手に入る。
その違和感が、
読みながらずっと消えなかった。
お金を手にしたことで強くなるのではなく、
むしろ、
疑い深くなっていく感じ。
誰かを信用できなくなっていく感じ。
一度そういうお金の世界を知ってしまうと、
時給で働くことが、
急に、ばかばかしく見えてしまう。
それが一番怖かった。
環境に染まるということ(言葉が変わる瞬間)
後半で感じた、空気に「染まっていく」怖さ
物語の後半、
私はハナの言葉遣いや態度の変化が、とても気になった。
最初から荒れていたわけではない。
でも、置かれた世界に慣れ、
その場所で生きるために必要な振る舞いを身につけていくうちに、
少しずつ、話し方や感情の出し方が変わっていく。
それはまるで、
知らない国に行って、言葉を覚え、
気づけばその国の考え方まで身についていくような感覚に近い。
ただしこれは、
その良くない方向のバージョンだ。
自分を守るために適応した結果、
いつの間にか、そこにいる「側の人間」になってしまう。
その変化が、とてもリアルで、怖かった。
「考える人ほど苦しくなる」世界の居心地の悪さ
作中で語られる、
「何も考えない人のほうが幸せだ」という言葉が、
ずっと頭に残っている。
本当にそうなんだろうか、と考えてしまった。
でも、読み進めるうちに思った。
それはきっと、
考えすぎてしまった人が、もう戻れなくなった場所で吐き出す言葉なんだと。
考えるから苦しい。
でも、考えなければ守れたものも、確かにあった。
もし、
必死に考えて、選んで、
その結果が「越えてはいけない一線」だったとしたら。
それなら、
何も考えずに、
ただ穏やかに生きているほうが幸せなのかもしれない。
そんな、答えの出ない気持ちを、
この本は突きつけてくる。
読み終えて残ったのは、怖さとやるせなさ
『黄色い家』が怖かったのは、
特別な悪人が出てくるからではない。
誰でも、
置かれる場所と、
選ぶしかない状況次第で、
そちら側に近づいてしまう。
そのリアルさが、
読み終わったあとも、
ずっと胸の奥に残っている。
「もし自分だったらどうしただろう」
そう考えさせられる一冊だった。
📚 今回読んだ本
👉 『黄色い家』川上未映子(楽天ブックス)
読み終えたあと、しばらく気分が重くなるかもしれません。
それでも、今の社会をどこかで感じている人には、きっと心に残る一冊だと思います。
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